湯野浜ガストロノミー 循環サイクル「ゆのはまわ~る」プロジェクトを実施しました ゆのはまがすとろのみー じゅんかんさいくる「ゆのはまわ~る」ぷろじぇくとをじっし

「『食の循環』で地域もまわす。湯野浜温泉のガストロノミーツーリズム」

湯野浜温泉は、鶴岡市に4つある温泉郷のひとつで、はるかむかし古くから海と白浜と温泉を魅力に多くの旅人を惹きつけてきました。その湯野浜の旅館「亀や」を会場として、2024年1月23日、「ゆのはまわ~るプロジェクト」旅館研修会が行われました。
このプロジェクトは、地域食材の循環を推進するなど、サスティナブルな地域を実現することで、独自のガストロノミーツーリズムを育てていく取り組みで、研修には、旅館の経営者や調理長など18人が参加しました。
ガストロノミーとサスティナブルな地域が、どのように結びつくのか。なかなか想像がつかないですが、例えば、いくら優れた伝統や文化があっても地域が疲弊していては意味がありません。地域の農業を守り、名物となる食材を育て、ビジネスにつなげていく地域の循環をつくることは、結果的に地域農業や地域経済の継続性を担保し、ガストロノミーツーリズムの基盤を整えることになるというわけです。
 
「分解力」に「タンパク質」最強幼虫の潜在力
研修は、プロジェクトを主導する湯野浜100年の切江芽依氏の司会のもと、同じく湯野浜100年取締役の阿部公和氏の概要説明からスタートしました。
プロジェクトの基盤となるのは、旅館やホテルから出る生ごみをアメリカミズアブという昆虫の幼虫が分解し、それを肥料にして地域特産の野菜を栽培。それを再び料理に使って価値を高めていくというサイクルをつくることです。阿部氏によれば、地域独自のガストロノミーツーリズムのメインに野菜を思い描いていた時に、たまたま損保ジャパンの岡本祥氏から生ごみを分解するミズアブの話を聞いたことが、このプロジェクトのきっかけになったといいます。サスティナブルな取り組みも、もともと湯野浜では、環境省と一緒に温泉の未利用熱を利用してCO 2の削減を行っており、旅館から出るごみに関しても組合が一括して収集し、処理していたことで自然な流れだったそうです。阿部氏は、美味しいことも重要だが、その裏にある食を大切にする文化もまたガストロノミーには欠かせないものではないかと、このプロジェクトの意義を強調しました。

次に、山形大学農学部でアメリカミズアブの研究を行う佐藤智准教授が登壇し、生ごみを分解し、肥料に変えるミズアブについての説明を行いました。
アメリカミズアブは、日本全国におり、別名、便所バチといわれるそうですが、名前とは裏腹に、病気を媒介することもなく、幼虫がタンパク質を多く含んでいることから、世界が注目する昆虫だそうです。この幼虫が、生ごみを旺盛に食べることで、本来ならば焼却すべき生ごみを、エネルギーを使うことなく、CO2を排出ることもなく処理し、肥料(液肥)にすることができます。
現在、佐藤先生は、すでに山形大学の学内で排出する年間1トンから2トンの生ごみをミズアブで処理しており、今後、推定55トンから65トンほど出るであろうとされる湯野浜温泉の生ごみを処理していくことを目指していきます。肝心の肥料の効果も化学肥料と同様の結果が計測されており、土壌にもいい影響があるといいます。また、肥料としてだけでなく、タンパク質の供給という役割にも期待が高まっていると佐藤先生はいい、そのポテンシャルの高さに参加者も驚いていました。

次にバトンを引き継いだのが、庄内空港近くで野菜を栽培するワッツ・ワッツ・ファームの佐藤公一氏。砂地の畑で庄内名産のメロンやミニトマト、ホウレンソウにショウガなど多彩な野菜を育てており、冬には、色味が乏しい野菜が多くなることから、黄色のカブや赤いニンジンなど、色鮮やかな野菜をビニールハウスでつくって、湯野浜の旅館でも使われています。
今回のプロジェクトにも、既に、山形大学と循環型の農業を共同で行っていた関係から抵抗なく参加しました。さらに、佐藤さんは、農家の課題として、野菜の販売価格は上がっているものの、卸価格は変わらないことから、生産コストをいかに下げるかに頭を悩ませていました。そういった背景から、廃棄された生ごみの利用は、コストの抑制にもなると期待をしています。ただ、まだどのタイミングで、どれくらいの量を使用することが効果的なのかというデータがないことから、今後も試行錯誤が続くようです。
 
サスティナブルだけではビジネスにならない
湯野浜100年の阿部さんいわく、いくら地球に優しい取り組みをしていても美味しくなければビジネスは成り立ちません。そこで阿部さんは、東京・丸の内の東京會舘から旧知の鈴木直登氏(日本料理顧問)を招き、湯野浜の味の「美味しさ」を考える研修を行いました。
ミズアブがつくった肥料で育てた野菜で鈴木さんがつくり、参加者やマスコミに振舞われたのは、鯛とあわせ柚子の風味が効いた「鯛蕪菁蒸 日本海風味」とベニズワイガニとあわせた「夜昼大根」の2品。会場にいる誰もが、美味しさをかみしめながら、講義を受けていました。
まず、鈴木さんが述べたのは、食材には「本能」が求めるもの、「理性」が求めるもの、そして「欲望」に駆られる3つの種類から成り立っているということでした。一般的に儲かるとされるのは「欲望」に駆られる食材。その代表であるお酒などに比べると、理性が求める野菜は、お客さんに訴える力に欠けるといいます。だからこそ、野菜の良さをより引き出すために保存法や調理法について詳しい解説を行いました。例えば、大根やカブの保存は、葉と根を切り落とし、常温で新聞紙に巻き、できれば吊るしておくことがよいということや、根菜など土に埋まっていたものは皮を剥き、一度陽の目を見せること、魚もしっかり生命を断って調理したほうが美味しくなり、決して鮮度を追求すればよいのではないことなど、目からうろこの講義となりました。
そして最後に「季節になったら、ここ湯野浜に来たいと思われるような料理」を目指して欲しいと述べ、ワッツ・ワッツ・ファームの佐藤さんにも「皮を食べられるような野菜をつくって欲しい」とリクエストをされていました。
 
湯野浜はこれまで「海」、「白浜」そして「温泉」が魅力と言われていました。そこに、このプロジェクトで「暮らし」と「食」が加わったことで、100年先に続く湯野浜のガストロノミーツーリズムが誕生したのではないでしょうか。

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