鶴岡ガストロノミーサミットを実施しました

2023年11月14日東京第一ホテル鶴岡で行われた「鶴岡ガストロノミーサミット」のレポートです。

「“ガストロノミーの聖地”になるために必要な『共創』意識」

2023年11月14日、前日に行われた「鶴岡ガストロノミーツーリズム~出羽三山精進料理を題材に」に引き続き、東京第一ホテル鶴岡で、「鶴岡ガストロノミーサミット」が行われました。「食の多様性」を掲げて訪日外国人を受け入れる環境整備を行う中で、ガストロノミーツーリズムが域内観光の強みにどうつながっていくのか。そして地域が、同じベクトルで進むためにも地域の合意形成をどう図っていくかをテーマに考えられた講演会です。構成は2部制で、第1部では「食のグローバル化と鶴岡のガストロノミー」と題して、ニューヨークやロサンゼルスで料理の技術を磨き、現在は日本におけるヴィーガン、プラントベース料理の第一人者である杉浦仁志シェフに登壇していただき、続く第2部では、杉浦氏に加えて、庄内ガストロノミーの第一人者で全国的にも知られるイタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」の奥田政行オーナーシェフ、ガストロノミーツーリズム研究の先駆者で平安女学院大学の尾家健夫教授が登壇しました。3人の話を引き出すファシリテーターには、地元のガストロノミーを磨き上げてきた合同会社MATERNAL小野愛美氏が務めています。

第1部の杉浦仁志シェフの基調講演では、「食の多様性」を考えることからスタート。体質や宗教などさまざまな理由から食べられない食材もベジタリアンやヴィーガン料理であれば、より多くの人が同じ料理を楽しめます。そのため、まずは、その理解から講義が行われました。さらに、インドは人口の半分がベジタリアンであり、台湾にもベジタリアンが多いといった市場の大きさや、ニューヨークでは、ヴィーガンの三ツ星レストランのコースが3万7000円にもなるという経済的な恩恵についても話され、野菜だけでも高単価が得られることを知った参加者からはため息が漏れていました。メリットが大きいこの分野で、日本でその恩恵をもっとも受けられるのが鶴岡だと杉浦シェフは言い、ガストロノミーの聖地になれるとまで断言します。その理由の一つが精進料理の存在。ベジタリアン、ヴィーガンと親和性の高い料理なだけに、考え方を少し変えるだけでベジタリアン、ヴィーガンに転用できると杉浦シェフ。ただ、そのためには料理人だけが努力してもダメで、地域の人々と共創することが欠かせないということを付け加えていました。鶴岡のポテンシャルの高さを聞いた参加者はポジティブに反応。「ヴィーガン、ベジタリアンの基本的な知識を知れて良かった」という感想だけでなく、「食のネットワークが重要」「食を通した課題解決が可能」といった積極的な提言まで飛び出し、鶴岡の食の魅力を再認識する講演となりました。

続いて第2部では、「ガストロノミーを目的とした観光地になるために必要なこと」が、まずはテーマとして挙げられました。尾家教授が参考にすべきとしたところは、フィレンツェの街などで知られるイタリアのトスカーナ州。ルネッサンスの芸術ととともに食が観光の目玉となっており、ワインやチーズ、パスタは輸出も行われ、ガストロノミーが観光を含む経済の中心であることを説明されました。さらに教授は、鶴岡もまた昨今の日本食のグローバル化から、トスカーナのようになれると期待を述べます。一方、これまで地域のガストロノミーをけん引してきた奥田シェフは、取材を受ける際に生産者にも会ってもらい、生産者とその生産物の素晴らしさについても伝える工夫を行ってきたと言います。しかもそれが、生産者の誇りにもつながるというのです。さらに奥田シェフは、鶴岡に視察に来る料理人や経営者たちを連れて行く「奥田版ガストロノミーツアー」のコースを披露。そのコースは善寳寺の魚の供養塔で手を合わすことからはじまり、かつて天領であった大山で多くの酒がつくられ、酒粕が豊富であったことが漬物の発展につながったなど、現在に至る食文化の歴史が見えるコースになっています。最後は、これまでまわってきたコースで収穫された食材を使ったフルコースが待っており、その土地をストーリーとして感じられる工夫がなされています。シェフにとっては、こうした工夫がそれぞれの街に色があるイタリアやフランスと、鶴岡が肩を並べることだと考えていると述べていました。

次に、小野氏から「地域においての合意形成」について振られると、杉浦シェフは「共創する地域になるにはコミュニティが重要」と話し、文化人の多い鶴岡だけにジャンルを超えたコミュニティができるのではと期待を語りました。さらに、コミュニティが魅力的になるためには、自分の強みや特長を知ることと、まず自分が動き出すしかないということを、奥田シェフが経験を踏まえて付け加えていました。
最後に、課題について聞かれた尾家教授は、インバウンドブームの先行きを懸念します。このブームが今後10年続くかは不透明ですし、世界中で観光客を奪い合う都市間競争が激化するとも予想しているといいます。その共創を勝ち抜くために尾家氏は、鶴岡のガストロノミーを世界に発信することが重要で、そのためには食のアトラクション化が必要だと述べていました。築地市場はその良い例であり、それ以外にも、食の祭りであるフードフェスティバル、奥田シェフの考えたような地域をめぐるフードツアー、そして食にまつわる場所を自由にまわれるフードトレイルの3つを提言していました。
奥田シェフも庄内地域が生み出す素材の素晴らしさを称えながら、次の世代をどう育てていくかを課題として挙げ、在来作物の利用法や調理法など、食を通じた地域文化を継承していくことが、鶴岡ガストロノミーツーリズムには欠かせないことだと結びました。
参加者からは、「鶴岡のポテンシャルの高さを再認識した」という意見とともに、さらなる成長に期待する声が多くみられました。その一方で、ディスカッションのテーマにも選ばれた「共創」という分野では、「鶴岡市全体でいかに一体となれるかが重要」という意見が散見され、魅力の多さゆえにそれぞれが独自に活動し、一体化できないもどかしさ、難しさが感じられるアンケート結果となりました。